早稲田大学教旨
早稲田大学は学問の独立を全うし学問の活用を効《いた》し模範国民を造就するを以て建学の本旨と為す
早稲田大学は学問の独立を本旨と為すを以てこれが自由討究を主とし常に独創の研鑽《けんさん》に力《つと》め以て世界の学問に裨補《ひほ》せん事を期す
早稲田大学は学問の活用を本旨と為すを以て学理を学理として研究すると共にこれを実際に応用するの道を講じ以て時世の進運に資せん事を期す
早稲田大学は模範国民の造就を本旨と為すを以て立憲帝国の忠良なる臣民として個性を尊重し身家を発達し国家社会を利済し併《あわ》せて広く世界に活動すべき人格を養成せん事を期す
これが本大学の教育の大綱である(拍手喝采)。これを少しく説明する必要を感ずるのである。世界の文明は停滞するものでない。世界の文明は日に進歩しつつある。すべて世界の思想感情、すべて社会の状態は日に月に変化しつつある時に当って国を立て社会を為し、またこの国と社会とのために大学教育を施さんとするには、その根本として雄大なる理想がなくてはならぬ。今日本はまさに東西文明の接触点に立っている。吾人の大なる理想は文明の調和者として東洋の文明と西洋高度の文明と並行せしめ、調和せしむるにある。吾人はこの理想の実現に努めなくてはならぬ。この理想を実現するには何としても学問の独立、学問の活用を主とし、独創の研鑽《けんさん》に力《つと》め、その結果を実際に応用するにある。而してこれに任ずべきものは個性を尊重し、身家を発達し、国家社会を利済し、広く世界に活動することを以て自ら任じ、またその任に堪《た》ゆるところの人格にある。これ即ち模範国民である。全体大学に学ぶものは多数ではない。多数国民の少数である。この少数の高等教育を受けたるものが国民の模範となる。国民の中堅はここに存する。国民の勢力はここに基《もとい》するのである。それが国家を堅実に発達せしめ、すべて文明的事業の急先鋒となるのである。
初出:1913(大正2)年11月10日
文学作品より当時学校の様子、学生生活の輪郭を読み解く。